ナイフとフォークで作るブログ

小説とアニメ、ときどき将棋とスポーツと何か。


近藤喜文『耳をすませば』再鑑賞メモ 〜窓に映る鏡像のこと等々〜

「金曜ロードショー」で年始に放送された『耳をすませば』の録画を鑑賞したので、観ていて気が付いたことを幾つか書き留めました。各項目間の関連性は特にありません。 本作品はこれまで幾度も観てきました。それでも尚、気付かされることは尽きないものです…

佐賀純一『戦争の話を聞かせてくれませんか』感想  〜戦争と日常の距離〜

私は戦争を知らない世代の人間です。ただ、祖父母や数人の先輩方から戦争体験を聞いたことがありました。 本書『戦争の話を聞かせてくれませんか』は、佐賀純一が市井のごく無名の方々が語る戦争体験に耳を傾け、文章にまとめたものです。それらの体験談を読…

木村義雄『ある勝負師の生涯 将棋一代』感想  〜 垣間見られる戦前の生活、風俗が興味深い 〜

木村義雄、将棋界の実力制第一代名人であり、第十四世名人(永世名人資格獲得による)である。 タイトルに『ある勝負師の生涯』とあるが、木村義雄の生涯の初めから終わりまで描かれているわけではない。幼い時期から、一度失った名人位を再奪還復位するまで…

齋藤学の移籍について感じたこと(3)  〜 ゼロ円移籍への不満編 〜

今回も斎藤学の移籍に関係したエントリーです。 ただこれまで2回(愚痴編・同情編)とは違い、齋藤学の移籍についての具体的な話題ではなく、日本サッカー界の移籍事情全般に関する、ある不満を記します。 ずばりゼロ円移籍への不満です。(ゼロ円移籍とは…

齋藤学の移籍について感じたこと(2)  〜 同情編 〜

昨日は齋藤学の移籍について、愚痴を書きました。snapkin.hatenablog.com 流石に恨み言の一つくらい言いたかったのです。 今日はうって変わって、同情編です。齋藤学にも当然、彼なりの事情があります。それを考えると、やはり移籍という決断に対して同情す…

齋藤学の移籍について感じたこと  〜 愚痴編 〜

齋藤学が移籍するというニュースを知り「マジかよ」という言葉がまず出た。 あとに続いたのは悲しみや怒りといったネガティブな感情も多かったけれど、それと同時に、ニュースのインパクトが強すぎて、どういった態度を取るべきか持て余すような状態だった。…

H・ケメルマン『九マイルは遠すぎる』感想  〜短編だからこそじっくりと〜

『九マイルは遠すぎる』(永井淳/深町真理子訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、1976、以下引用は断りのない限り本書から)を読みました。 私はミステリーの熱心な読者ではないので、有名作品を摘み読むことが主です。本作はいわゆる安楽椅子探偵ものの代表的作品…

岸虎次郎『オトメの帝国』感想  〜優しさのある日常系〜

『オトメの帝国』が『グランドジャンプ』から『少年ジャンプ+』に移籍し再スタートしました(2017年11月22日)。 shonenjumpplus.com 作品紹介には「’10年代ティーンたちの、波乱に満ちた日々を描くセキララ百合コメディ」とありますが、いささか大げさかと…

村上春樹『もし僕らの言葉がウィスキーであったなら』感想  〜ウィスキーと、素面の言葉〜

酒は、人に言葉を紡がせる魅力を持っている。 飲酒の情景を描いた文学作品は数多い。たとえば漢詩では、飲酒が主要なテーマの一つとなっている。また日常においても、粋な酒の飲み方や、飲酒にまつわる武勇伝を語りたがる人は少なくない。 酒は、人をして物…

J・P・ホーガン『星を継ぐもの』感想  〜ミステリー小説として楽しむ〜

これまでSF作品にあまり親しんでこなかったこともあり、サイエンスの要素は最低限の理解で済ませつつ読んだ。それでも『星を継ぐもの』は楽しめる作品だった。 SFのサイエンスに興味のある人や、理系の勉強をした人ならばより深く楽しめるのかもしれない。し…

メル・ギブソン監督『ハクソー・リッジ』感想  〜そのときデズモンド・ドスは英雄ではなかった〜

デズモンド・ドスは米国軍人でありながら武器を持たずに従軍し、第二次世界大戦沖縄戦の激戦地「ハクソー・リッジ」において75名の命を救う。まさに、英雄的といえる行動だった。 しかし、彼は負傷者を救い始めた瞬間から英雄だったのだろうか。それは違う…

桜庭一樹『私の男』を読んで  〜土地と女と男と〜

桜庭一樹は土地を描く。 桜庭一樹作品の登場人物は、ある土地において(『私の男』では奥尻と紋別)、周囲から期待される居場所と、自分が心地よいと思う居場所の間に齟齬があり、その齟齬を埋められずにいる人たちだ。 彼らのうちの幾人かは、その齟齬と何…

司馬遼太郎『歴史の世界から』読書メモ

司馬遼太郎『歴史の世界から』を読んでいて気になった文章を引用し、コメントを添えています。作品自体が、短いコラムを集めて編まれた書物なので、引用ごとの関連性はほとんどありません。個別に読んでください。 家康の罪 しかし、家康は功罪が大きいな。 …

森見登美彦『四畳半王国見聞録』ごく短な感想

四畳半と阿呆神への執着 本作は「四畳半王国。それは外界の森羅万象に引けをとらない、豊穣で深遠な素晴らしい世界である」(森見登美彦『四畳半王国見聞録』新潮社/2011/p10、以下引用は同書より)や「『世界は阿呆神が支配する』芹名が呟く。意味は分から…

塩野七生『海の都の物語 2 ヴェネツィア共和国の一千年』読書メモ

人間の良識を信ずることを基盤としたフィレンツェの共和体制が一五三〇年に崩壊した後も、それからさらに三百年近く、人間の良識を信じないことを基盤にしていたヴェネツィアの共和体制は、存続することができたのであった。 (塩野七生『海の都の物語 2 ヴ…

『シュリーマン旅行記 清国・日本』感想  〜 偏見なき知性 〜

ハインリッヒ・シュリーマン。トロイヤ遺跡の発掘で知られた人物である。 しかし、そのシュリーマンが幕末期(1865年)の日本を訪れていたことは、あまり知られてないのではないか。本書はトロイヤ発掘に先立つ6年前、世界を旅行をした彼が、清国と日本につ…

内澤旬子『世界屠畜紀行』メモ(1)

「人は、どうしても動物に感情移入してしまうんですよね。でも動物には、人間が想定するような苦しみだとか、喜びだとか、そういった感情はほとんどありません。チンパンジーだって人ほどには複雑に『思って』ないですよ。たとえば、お腹のすいたチンパンジ…

『聲の形』感想 〜西宮硝子とキャラクターデザインのこと〜

ヒロイン西宮硝子 ちょっと遅くなりましたが『聲の形』見ました。 ヒロインの西宮硝子が可愛かったです。今まで見たアニメキャラの中で一番でした。自分でも一番だなどと簡単に言っていいのかと感じるのですが、それでも一番なのだと思います。『とらドラ!…

塩野七生『海の都の物語 1 ヴェネツィア共和国の一千年』読書メモ(1)

歴史と、そこにある普遍 たしかに、ヴェネツィアは、共和国の国民すべての努力の賜物である。ヴェネツィア共和国ほどアンティ・ヒーローに徹した国を、私は他に知らない。 しかし、庶民の端々に至るまで、自分たちの置かれた環境を直視し、それを改善するだ…

米澤穂信『いまさら翼といわれても』前篇を読んでの推理

「野性時代」146号(2016年1月号)掲載の米澤穂信『いまさら翼といわれても』前篇を読んだ上での推理を記します。世間的には後篇が掲載される「野性時代」147号(2016年2月号)が発行されているはずですが、まだ書店から当方までは配達され…

森見登美彦『太陽の塔』を読んで 〜私と水尾さんと太陽の塔〜

太陽の塔は主人公「私」にとって偉大であり、かつての恋人水尾さんを見るための偉大な照射装置であり、作品のタイトルでもある。けれど京都にはない。 『太陽の塔』の舞台はどっぷり京都で、太陽の塔はそこにはない。晴れ渡った日に「太陽の塔が見えますなあ…

山野井泰史『垂直の記憶』を読んで。 〜 人間の強さ 〜

フィジカルな文章 山野井泰史『垂直の記憶』を読みおえた。非常に面白かった。 毎年読んだ本をランキングしていのだけれど、今年の一番は間違いなく『垂直の記憶』だ。(ちなみにこれまでの一番は北村薫『太宰治の辞書』だった。) 十代の頃に植村直己の冒険…

つくみず『少女終末旅行』2巻の感想  〜 文明を葬送する二人 〜

『少女終末旅行』 チトとユーリ、二人の少女が文明の崩壊した終末世界を愛車のケッテンクラートで旅をする物語。それが『少女終末旅行』です。実際は文明が崩壊したと明言されていないですし、チトとユーリの移動が旅と呼べるものかも定かではありません。ま…

東野圭吾『変身』と『長門有希ちゃんの消失』の共通項  〜人格の変化と、記憶の維持〜

十日ほど前に東野圭吾『変身』を読みました。ちょうど『長門有希ちゃんの消失』の最終回を見た直後でした。この二作品、あまり同じ話題の中で語られることはなさそうです。しかし両作品が有す一つの共通点に気が付きました。 その共通点は「記憶を維持した状…

本谷有希子『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』感想  〜期待と、その核にある真摯さ〜

『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』。格好いいタイトルです。このタイトルを持って駄作があるとは到底思えません。実際、面白い小説でした。期待 物語を読み解く際の一つの手掛かりとして、登場人物それぞれが持つ期待の方向と大きさに注目するようにしてい…

『長門有希ちゃんの消失』見終えた感想。

『長門有希ちゃんの消失』面白かったです。『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズは読んでいるのですが、こちらの原作は全く触れていず、先入観なく見れたので新鮮でもありました。 正直、13話「長門有希ちゃんの消失III」を見たときに、切ないけれど良い最終回だ…

東野圭吾『眠りの森』感想  〜浮つく加賀恭一郎〜

『眠りの森』を読み始めたとき、加賀恭一郎が浮ついていると感じました。あからさまにバレエダンサー浅岡未緒にうつつを抜かしていたからです。しかし最後まで読んで納得しました。本作は当然推理小説ですが、同時に男女の出会いの物語だったのです。 一度だ…

雑記(15/07/17) 〜東野圭吾『眠りの森』を読んでいます〜

東野圭吾『眠りの森』を読んでいます。まだ100頁ほどなので、全体の三分の一といったところです。 加賀恭一郎シリーズは随分前に『卒業』を読んで以来です。主人公加賀恭一郎は、『卒業』では割りと硬派な印象を受けたのですが、今回の『眠りの森』ではバ…

【印象深い文章】伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』より(2)

久遠が以前に、「人間の最大の欠点の一つは、『分をわきまえないこと』だよ。動物はそんなことがない」と言っていた 引用元:伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』(文庫版)祥伝社(平成18年2月20日発行)p281 これは雪子のエピソード記憶で…

【印象深い文章】伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』より(1)

人には教育欲がある。一度きりの人生に自信がないものだから、他人に先生面して、安心するのだ。 引用元:伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』(文庫版)祥伝社(平成18年2月20日発行)p26 確かにそうですね。「人には教育欲がある」と思いま…