ナイフとフォークで作るブログ

小説とアニメ、ときどき将棋とスポーツと何か。


小説・文学

司馬遼太郎『歴史の世界から』読書メモ

司馬遼太郎『歴史の世界から』を読んでいて気になった文章を引用し、コメントを添えています。作品自体が、短いコラムを集めて編まれた書物なので、引用ごとの関連性はほとんどありません。個別に読んでください。 家康の罪 しかし、家康は功罪が大きいな。 …

森見登美彦『四畳半王国見聞録』ごく短な感想

四畳半と阿呆神への執着 本作は「四畳半王国。それは外界の森羅万象に引けをとらない、豊穣で深遠な素晴らしい世界である」(森見登美彦『四畳半王国見聞録』新潮社/2011/p10、以下引用は同書より)や「『世界は阿呆神が支配する』芹名が呟く。意味は分から…

塩野七生『海の都の物語 2 ヴェネツィア共和国の一千年』読書メモ

人間の良識を信ずることを基盤としたフィレンツェの共和体制が一五三〇年に崩壊した後も、それからさらに三百年近く、人間の良識を信じないことを基盤にしていたヴェネツィアの共和体制は、存続することができたのであった。 (塩野七生『海の都の物語 2 ヴ…

『シュリーマン旅行記 清国・日本』感想  〜 偏見なき知性 〜

ハインリッヒ・シュリーマン。トロイヤ遺跡の発掘で知られた人物である。 しかし、そのシュリーマンが幕末期(1865年)の日本を訪れていたことは、あまり知られてないのではないか。本書はトロイヤ発掘に先立つ6年前、世界を旅行をした彼が、清国と日本につ…

塩野七生『海の都の物語 1 ヴェネツィア共和国の一千年』読書メモ(1)

歴史と、そこにある普遍 たしかに、ヴェネツィアは、共和国の国民すべての努力の賜物である。ヴェネツィア共和国ほどアンティ・ヒーローに徹した国を、私は他に知らない。 しかし、庶民の端々に至るまで、自分たちの置かれた環境を直視し、それを改善するだ…

米澤穂信『いまさら翼といわれても』前篇を読んでの推理

「野性時代」146号(2016年1月号)掲載の米澤穂信『いまさら翼といわれても』前篇を読んだ上での推理を記します。世間的には後篇が掲載される「野性時代」147号(2016年2月号)が発行されているはずですが、まだ書店から当方までは配達され…

森見登美彦『太陽の塔』を読んで 〜私と水尾さんと太陽の塔〜

太陽の塔は主人公「私」にとって偉大であり、かつての恋人水尾さんを見るための偉大な照射装置であり、作品のタイトルでもある。けれど京都にはない。 『太陽の塔』の舞台はどっぷり京都で、太陽の塔はそこにはない。晴れ渡った日に「太陽の塔が見えますなあ…

山野井泰史『垂直の記憶』を読んで。 〜 人間の強さ 〜

フィジカルな文章 山野井泰史『垂直の記憶』を読みおえた。非常に面白かった。 毎年読んだ本をランキングしていのだけれど、今年の一番は間違いなく『垂直の記憶』だ。(ちなみにこれまでの一番は北村薫『太宰治の辞書』だった。) 十代の頃に植村直己の冒険…

東野圭吾『変身』と『長門有希ちゃんの消失』の共通項  〜人格の変化と、記憶の維持〜

十日ほど前に東野圭吾『変身』を読みました。ちょうど『長門有希ちゃんの消失』の最終回を見た直後でした。この二作品、あまり同じ話題の中で語られることはなさそうです。しかし両作品が有す一つの共通点に気が付きました。 その共通点は「記憶を維持した状…

本谷有希子『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』感想  〜期待と、その核にある真摯さ〜

『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』。格好いいタイトルです。このタイトルを持って駄作があるとは到底思えません。実際、面白い小説でした。期待 物語を読み解く際の一つの手掛かりとして、登場人物それぞれが持つ期待の方向と大きさに注目するようにしてい…

東野圭吾『眠りの森』感想  〜浮つく加賀恭一郎〜

『眠りの森』を読み始めたとき、加賀恭一郎が浮ついていると感じました。あからさまにバレエダンサー浅岡未緒にうつつを抜かしていたからです。しかし最後まで読んで納得しました。本作は当然推理小説ですが、同時に男女の出会いの物語だったのです。 一度だ…

雑記(15/07/17) 〜東野圭吾『眠りの森』を読んでいます〜

東野圭吾『眠りの森』を読んでいます。まだ100頁ほどなので、全体の三分の一といったところです。 加賀恭一郎シリーズは随分前に『卒業』を読んで以来です。主人公加賀恭一郎は、『卒業』では割りと硬派な印象を受けたのですが、今回の『眠りの森』ではバ…

【印象深い文章】伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』より(2)

久遠が以前に、「人間の最大の欠点の一つは、『分をわきまえないこと』だよ。動物はそんなことがない」と言っていた 引用元:伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』(文庫版)祥伝社(平成18年2月20日発行)p281 これは雪子のエピソード記憶で…

【印象深い文章】伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』より(1)

人には教育欲がある。一度きりの人生に自信がないものだから、他人に先生面して、安心するのだ。 引用元:伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』(文庫版)祥伝社(平成18年2月20日発行)p26 確かにそうですね。「人には教育欲がある」と思いま…

武田綾乃『今日、きみと息をする。』感想  〜荒削りだけれど、面白い小説〜

武田綾乃『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ』を購入しようとしたところ品切れだったので、同じ武田綾乃による『今日、きみと息をする。』を選びました。荒削りな原石 『今日、きみと息をする。』という作品、率直な感想を言うと面白く、…

『ブギーポップシリーズ』の落とし穴

まさに今年の正月に『ブギーポップは笑わない』を読み始め、断続的に続巻を読みつつ、今は『ブギーポップ・パラドックス ハートレス・レッド』を読んでいる最中です。『ブギーポップシリーズ』と云えば、ライトノベルでは最早古典と言っても差し支えない位置…

恩田陸『Q&A』感想 

恩田陸の作品では『夜のピクニック』が一番好きで、他には『六番目の小夜子』『ネバーランド』などが好みの作品です。つまりは青春(成長)小説です。何故こういった作品が好きなのかというと、登場人物の心情の状況、変化が繊細に描かれているからです。 小…

伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』から、気に入った文章を幾つか

「この名探偵というのは何のためにいるか、知ってる? 私たちのためよ。物語の外にいる私たちを救うためにいるのよ。馬鹿らしい」 興味深い意見だ、と僕も思った。名探偵は、物語の一つ上のレベルに立っている。そうだとすると、優午も同じ立場に違いなかっ…

伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』感想 〜城山と「勧善懲悪の物語が好きだ」ということの繋がり〜

伊坂幸太郎の小説を初めて読んだ。読み始めた時には知らなかったのだけれど、この作品は伊坂のデビュー作とのこと。 よいことだ。新しい作家に挑戦する際はデビュー作がうってつけだと思う。何故なら第一作を発表する時点で第二作、三作の出版を保証されてい…

森絵都『永遠の出口』を読んだ感想

『永遠の出口』は岸本紀子という一人の少女の小学三年〜高校三年までの十年間を、九つの章に分けて書いた物語だ。第一章が小三〜四の二年に跨ぐのを除くと、一章ごとに一つづつ学年を重ねていく。 つまりは成長小説である。それぞれの学年でのエピソードを読…

米澤穂信『秋期限定栗きんとん事件』精読1

「それなら、わかる。……きっと、雪の降った朝、一番に道に出て、足跡をつけていくような気分」 (中略) 「それで、他のひとがもう足跡をつけられないように、ぜんぶ雪かきしちゃうの」 (米澤穂信『秋期限定栗きんとん事件』上巻 創元推理文庫 p47、p48) …

上橋菜穂子『夢の守り人』『虚空の旅人』を読んで

上橋菜穂子『夢の守り人』と『虚空の旅人』を続けて読んでいます。いわゆる<守り人シリーズ>の3作目と4作目の作品です。 大雑把な印象としては『夢の守り人』はタンダの内面を描いた「個人的な物語」であり、『虚空の旅人』はサンガル国を中心とした国家…

米澤穂信『冬期限定チョコブラウニー事件』で小鳩常悟朗と小佐内ゆきはどこに辿り着くのか

昨日に続いて、米澤穂信の『〈小市民〉シリーズ』についてです。 『春期限定いちごタルト事件』を読み直していると、「羊の着ぐるみ」の章に或る文章を見つけました。ちなみに「羊の着ぐるみ」の羊は、害のない者つまり小市民のメタファーでしょう、というの…

米澤穂信『冬期限定三色最中事件』はいつ出版されるのか?

ただいま米澤穂信『春期限定いちごタルト事件』を読み直しています。久々に読んでみると小佐内ゆきさんの印象が少し違った風に感じられました。この『春期限定』から始まる、いわゆる「〈小市民〉シリーズ」では『秋期限定栗きんとん事件』を手始めに読んだ…

若竹七海『スクランブル』の感想 〜 玉子以上、玉子未満 〜

玉子・卵・タマゴ 「スクランブル」 「ボイルド」 「サニーサイド・アップ」 「ココット」 「フライド」 「オムレット」 各章題に玉子料理が並ぶ。 白い楕円形の玉子。遠くからジッと眺めようが、近くに寄ってジロジロ観察しようが、一つ一つの明らかな違い…

上橋菜穂子『獣の奏者 Ⅰ 闘蛇編』感想。

ファンタジー×物語×少女の成長 上橋菜穂子『獣の奏者 Ⅰ 闘蛇編』読了。とても面白かった。 以前に『精霊の守り人』『闇の守り人』を読んでいたので、上橋のファンタジー世界の創造力と、物語を組み上げる筆力の秀でていることは認識していたが、本作ではさら…

漫画『陽のあたる家 〜生活保護に支えられて〜』を読んだ感想。 〜 生活保護を考える入り口として 〜

さいきまこ『陽のあたる家 〜生活保護に支えられて〜』(秋田書店/2013年)は、なるべく多くの人に読まれて欲しい作品だ。 生活保護についての理解がなかなか広まらない現状が有る。それはやはり不幸な事態だ。 人が生活していれば、ときには思いがけな…

綿矢りさ『勝手にふるえてろ』感想。  〜 ふるえてるのは、綿矢りさ 〜

「もういい、想っている私に美がある。イチはしょせん、ヒトだもの。しょせん、ほ乳類だもの。私のなかで十二年間育ちつづけた愛こそが美しい。イチなんか、勝手にふるえてろ」(綿矢りさ『勝手にふるえてろ』文春文庫版 p131)『インストール』『蹴りたい背…

羽生善治『大局観 ── 自分と戦って負けない心』を読んだ感想。

「大局観」の朧気な形 タイトルは『大局観』とあるが、それについては最初に概括的に述べられていて、あとは時々言及される程度だ。つまり一冊通して「大局観」を語った本ではない。むしろエッセイ的な書き口で、テーマは各章各項ごとに変化する。 それらの…

有川浩『図書館戦争』を読んだ感想。  〜 それは自然に、荒唐無稽な物語 〜

突っ込まないが吉 『図書館戦争』を読んでいて、(恐らく)法治国家である作品舞台の日本で、同一の法体系下にありながら、武力行使が為されているのは可笑しいだろ、と突っ込みを入れたら負けだなと思った。 これは『ハリーポッター』と同じで、学校行事で…

恩田陸『卒業』を読んだ感想。 〜 卒業、あるいは希望と絶望の相転移 〜

『卒業』は、短篇集『朝日のようにさわやかに』に収録されている。 この短編は、何者かに囚われた少女たちの逃避の物語だ。彼女達はそれを卒業と言う。 短い物語ゆえに、出来事の前後関係は不明だが、彼女達は僅かな希望を求めて異形の者の支配から逃げ出す…

西村賢太『けがれなき酒のへど』を読んだ感想。

処女作 『けがれなき酒のへど』は、西村賢太のデビュー作だ。そして、私が初めて読んだ西村作品だ。 ある作家を知る時には、処女作から読むのが好もしいと思う。その作家の、書きたいことが書き込まれている(可能性が高い)からだ。次作の確信のある作家な…

北村薫『秋の花』:考察2 〜女性としての「私」の成長〜

北村薫『秋の花』:考察1 〜本を読む「私」の成長〜の続きです。女性としての「私」の成長 『秋の花』での「私」の女性としての成長は、周囲の人間との関係によって促される部分が大きい。ある人は「私」の足らないところを積極的に補い、別な誰かは意図す…

サン=テグジュペリ『人間の土地』を読んで。

空 サン=テグジュペリといえば『星の王子さま』です。それ以外で、はじめてサン=テグジュペリについて知ったのは2000年頃の、彼の名前の刻まれたブレスレットが見つかったというニュースで、でした。その後に、『夜間飛行』(『南方郵便機』併録)を読み…

北村薫『秋の花』:考察1 〜本を読む「私」の成長〜

『秋の花』:「私」の成長物語 『秋の花』は北村薫による《円紫》シリーズで三番目に出版された作品だ。シリーズ初の長編となっている。 この作品は、よく知られているようにミステリー小説だ。 しかし、ここではミステリーの要素には触れずに、主人公である…

恩田陸論:「くり返し」という主題について

恩田陸の作品を読むのは『図書室の海』で三冊目だ。最初に読んだのは『夜のピクニック』、二冊目は『六番目の小夜子』である。恩田陸の作品は優に五十以上あるので、読んだ量はまだまだ少ない。「くり返し」という主題 しかし読んだ作品が少なくとも、思うこ…

読書録:桐野夏生『グロテスク』を読んで。 その2

一応、 http://snapkin.hatenablog.com/entry/2013/09/19/005131 の続きです。 はじめに 『グロテスク』は、とても面白い小説だった。特に上巻で描かれている「わたし」の小さな王国と、物語に漂う拭い切れない不穏さが魅力的だった。下巻については、物語を…

読書録:桐野夏生『グロテスク』を読んで。

枕 『グロテスク』を読み終わったので、今日はそれについてブログに書こうと思っていた。ところが、ニコ生で将棋の「王座戦」第二局、羽生善治王座対中村太地六段が流れていて、それに見入ってしまった。そのために、二つあった書きたいことのうち一つしか書…

百伍圓読書録5:宮部みゆき『火車』を読みました!

私的、宮部みゆき体験 宮部みゆきの作品を読んだのは、この『火車』が二作品目で、はじめに読んだのは『ブレイブ・ストーリー』でした。つまり宮部作品の経験は少ないです。 正直なところ、宮部みゆきという作家に対する認識の持ち様すら、まだ定まっていま…

読書録:米澤穂信『リカーシブル』を読んで。

感想 ※以下、ネタバレあります。 米澤穂信が好きで、発表された作品の少なくとも半分以上は読んでいるはずです。 その中で『リカーシブル』は、あまり出来が良いと感じませんでした。もちろん米澤穂信が書く訳ですので、ある程度の質は保証されています。あ…

読書録:団鬼六『真剣師小池重明』を読んで。

私的解説 小池重明の人生は、将棋界の正史に対する外伝だ。 凄腕の真剣師であり、ときにプロ棋士を凌ぎながらプロ棋士にはなれず、度重なる素行の悪さからアマチュア将棋界での居場所も失う。将棋の強さとは裏腹に、ついに小池重明が将棋世界の本流に乗るこ…

百伍圓読書録4:有川浩『阪急電車』を読みました!

雑感 『阪急電車』、期待してたより面白いなあと思いました。この作品が映画化されていることを知っていましたが、「映画化=単純な物語」という完璧な予断を持っていて、期待しなかったのです。たまたま近くにあったから、暇つぶしに良さそうだからと読み始…

百伍圓読書録3:司馬遼太郎『夏草の賦』読みました!

挫折者としての長宗我部元親 『夏草の賦』は司馬遼太郎の作品群の中では、やや知名度の低い作品ではあるが、一読すればファンになる人も多いように思う。 長宗我部元親は実力も野心も申し分なく持っていたが、地理的不利を克服することができなかった。英雄…

恩田陸『六番目の小夜子』読んだ感想です。

不完全さについての物語 『六番目の小夜子』は不完全さについての物語だ。その物語は二組の男女を通して語られる。 一組目は花宮雅子と唐沢由紀夫。二人の恋物語は、初々しく清らかだ。彼らは互いに、「好きだ」とか「付き合って欲しい」という言葉を口にし…

百伍圓読書録2:恩田陸『六番目の小夜子』読みました!

百伍圓読書録というのは、ブックオフの105円コーナーで手に入りそうな本に限定して雑感を書くシリーズです。今度で2回目です。ちなみに1回目は綿矢りさ『インストール』でした。105円コーナーは手を出しやすいので、食わず嫌いしていた作家なんかに…

百伍圓読書録:綿矢りさ『インストール』読みました!

百伍圓読書録のこと ブックオフの105円コーナーって楽しいですよね。 品揃えが豊富ですし、五十音順に整理されていて探すにも便利です。流石にリアルタイムのベストセラーや流行作家の新刊なんかは手に入りません。でも、そこには沢山の名作が置かれています…