ナイフとフォークで作るブログ

小説とアニメ、ときどき将棋とスポーツと何か。


文学

米澤穂信『冬期限定三色最中事件』はいつ出版されるのか?

ただいま米澤穂信『春期限定いちごタルト事件』を読み直しています。久々に読んでみると小佐内ゆきさんの印象が少し違った風に感じられました。この『春期限定』から始まる、いわゆる「〈小市民〉シリーズ」では『秋期限定栗きんとん事件』を手始めに読んだ…

若竹七海『スクランブル』の感想 〜 玉子以上、玉子未満 〜

玉子・卵・タマゴ 「スクランブル」 「ボイルド」 「サニーサイド・アップ」 「ココット」 「フライド」 「オムレット」 各章題に玉子料理が並ぶ。 白い楕円形の玉子。遠くからジッと眺めようが、近くに寄ってジロジロ観察しようが、一つ一つの明らかな違い…

上橋菜穂子『獣の奏者 Ⅰ 闘蛇編』感想。

ファンタジー×物語×少女の成長 上橋菜穂子『獣の奏者 Ⅰ 闘蛇編』読了。とても面白かった。 以前に『精霊の守り人』『闇の守り人』を読んでいたので、上橋のファンタジー世界の創造力と、物語を組み上げる筆力の秀でていることは認識していたが、本作ではさら…

漫画『陽のあたる家 〜生活保護に支えられて〜』を読んだ感想。 〜 生活保護を考える入り口として 〜

さいきまこ『陽のあたる家 〜生活保護に支えられて〜』(秋田書店/2013年)は、なるべく多くの人に読まれて欲しい作品だ。 生活保護についての理解がなかなか広まらない現状が有る。それはやはり不幸な事態だ。 人が生活していれば、ときには思いがけな…

綿矢りさ『勝手にふるえてろ』感想。  〜 ふるえてるのは、綿矢りさ 〜

「もういい、想っている私に美がある。イチはしょせん、ヒトだもの。しょせん、ほ乳類だもの。私のなかで十二年間育ちつづけた愛こそが美しい。イチなんか、勝手にふるえてろ」(綿矢りさ『勝手にふるえてろ』文春文庫版 p131)『インストール』『蹴りたい背…

羽生善治『大局観 ── 自分と戦って負けない心』を読んだ感想。

「大局観」の朧気な形 タイトルは『大局観』とあるが、それについては最初に概括的に述べられていて、あとは時々言及される程度だ。つまり一冊通して「大局観」を語った本ではない。むしろエッセイ的な書き口で、テーマは各章各項ごとに変化する。 それらの…

有川浩『図書館戦争』を読んだ感想。  〜 それは自然に、荒唐無稽な物語 〜

突っ込まないが吉 『図書館戦争』を読んでいて、(恐らく)法治国家である作品舞台の日本で、同一の法体系下にありながら、武力行使が為されているのは可笑しいだろ、と突っ込みを入れたら負けだなと思った。 これは『ハリーポッター』と同じで、学校行事で…

恩田陸『卒業』を読んだ感想。 〜 卒業、あるいは希望と絶望の相転移 〜

『卒業』は、短篇集『朝日のようにさわやかに』に収録されている。 この短編は、何者かに囚われた少女たちの逃避の物語だ。彼女達はそれを卒業と言う。 短い物語ゆえに、出来事の前後関係は不明だが、彼女達は僅かな希望を求めて異形の者の支配から逃げ出す…

西村賢太『けがれなき酒のへど』を読んだ感想。

処女作 『けがれなき酒のへど』は、西村賢太のデビュー作だ。そして、私が初めて読んだ西村作品だ。 ある作家を知る時には、処女作から読むのが好もしいと思う。その作家の、書きたいことが書き込まれている(可能性が高い)からだ。次作の確信のある作家な…

北村薫『秋の花』:考察2 〜女性としての「私」の成長〜

北村薫『秋の花』:考察1 〜本を読む「私」の成長〜の続きです。女性としての「私」の成長 『秋の花』での「私」の女性としての成長は、周囲の人間との関係によって促される部分が大きい。ある人は「私」の足らないところを積極的に補い、別な誰かは意図す…

サン=テグジュペリ『人間の土地』を読んで。

空 サン=テグジュペリといえば『星の王子さま』です。それ以外で、はじめてサン=テグジュペリについて知ったのは2000年頃の、彼の名前の刻まれたブレスレットが見つかったというニュースで、でした。その後に、『夜間飛行』(『南方郵便機』併録)を読み…

北村薫『秋の花』:考察1 〜本を読む「私」の成長〜

『秋の花』:「私」の成長物語 『秋の花』は北村薫による《円紫》シリーズで三番目に出版された作品だ。シリーズ初の長編となっている。 この作品は、よく知られているようにミステリー小説だ。 しかし、ここではミステリーの要素には触れずに、主人公である…

恩田陸論:「くり返し」という主題について

恩田陸の作品を読むのは『図書室の海』で三冊目だ。最初に読んだのは『夜のピクニック』、二冊目は『六番目の小夜子』である。恩田陸の作品は優に五十以上あるので、読んだ量はまだまだ少ない。「くり返し」という主題 しかし読んだ作品が少なくとも、思うこ…

読書録:桐野夏生『グロテスク』を読んで。 その2

一応、 http://snapkin.hatenablog.com/entry/2013/09/19/005131 の続きです。 はじめに 『グロテスク』は、とても面白い小説だった。特に上巻で描かれている「わたし」の小さな王国と、物語に漂う拭い切れない不穏さが魅力的だった。下巻については、物語を…

読書録:桐野夏生『グロテスク』を読んで。

枕 『グロテスク』を読み終わったので、今日はそれについてブログに書こうと思っていた。ところが、ニコ生で将棋の「王座戦」第二局、羽生善治王座対中村太地六段が流れていて、それに見入ってしまった。そのために、二つあった書きたいことのうち一つしか書…

百伍圓読書録5:宮部みゆき『火車』を読みました!

私的、宮部みゆき体験 宮部みゆきの作品を読んだのは、この『火車』が二作品目で、はじめに読んだのは『ブレイブ・ストーリー』でした。つまり宮部作品の経験は少ないです。 正直なところ、宮部みゆきという作家に対する認識の持ち様すら、まだ定まっていま…

読書録:米澤穂信『リカーシブル』を読んで。

感想 ※以下、ネタバレあります。 米澤穂信が好きで、発表された作品の少なくとも半分以上は読んでいるはずです。 その中で『リカーシブル』は、あまり出来が良いと感じませんでした。もちろん米澤穂信が書く訳ですので、ある程度の質は保証されています。あ…

読書録:団鬼六『真剣師小池重明』を読んで。

私的解説 小池重明の人生は、将棋界の正史に対する外伝だ。 凄腕の真剣師であり、ときにプロ棋士を凌ぎながらプロ棋士にはなれず、度重なる素行の悪さからアマチュア将棋界での居場所も失う。将棋の強さとは裏腹に、ついに小池重明が将棋世界の本流に乗るこ…

百伍圓読書録4:有川浩『阪急電車』を読みました!

雑感 『阪急電車』、期待してたより面白いなあと思いました。この作品が映画化されていることを知っていましたが、「映画化=単純な物語」という完璧な予断を持っていて、期待しなかったのです。たまたま近くにあったから、暇つぶしに良さそうだからと読み始…

百伍圓読書録3:司馬遼太郎『夏草の賦』読みました!

挫折者としての長宗我部元親 『夏草の賦』は司馬遼太郎の作品群の中では、やや知名度の低い作品ではあるが、一読すればファンになる人も多いように思う。 長宗我部元親は実力も野心も申し分なく持っていたが、地理的不利を克服することができなかった。英雄…

恩田陸『六番目の小夜子』読んだ感想です。

不完全さについての物語 『六番目の小夜子』は不完全さについての物語だ。その物語は二組の男女を通して語られる。 一組目は花宮雅子と唐沢由紀夫。二人の恋物語は、初々しく清らかだ。彼らは互いに、「好きだ」とか「付き合って欲しい」という言葉を口にし…

百伍圓読書録2:恩田陸『六番目の小夜子』読みました!

百伍圓読書録というのは、ブックオフの105円コーナーで手に入りそうな本に限定して雑感を書くシリーズです。今度で2回目です。ちなみに1回目は綿矢りさ『インストール』でした。105円コーナーは手を出しやすいので、食わず嫌いしていた作家なんかに…

百伍圓読書録:綿矢りさ『インストール』読みました!

百伍圓読書録のこと ブックオフの105円コーナーって楽しいですよね。 品揃えが豊富ですし、五十音順に整理されていて探すにも便利です。流石にリアルタイムのベストセラーや流行作家の新刊なんかは手に入りません。でも、そこには沢山の名作が置かれています…