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ナイフとフォークで作るブログ

小説とアニメ、ときどき将棋とスポーツと何か。


サン=テグジュペリ『人間の土地』を読んで。

 サン=テグジュペリといえば『星の王子さま』です。それ以外で、はじめてサン=テグジュペリについて知ったのは2000年頃の、彼の名前の刻まれたブレスレットが見つかったというニュースで、でした。その後に、『夜間飛行』(『南方郵便機』併録)を読みました。


 そういった、サン=テグジュペリに関する体験の中で抱く印象は、あくまで空にありました。『星の王子さま』は砂漠での物語ですが、砂漠自体が宇宙に浮かぶ小さな星のように不思議な光を放っていました。

土地

 しかし、『人間の土地』を読み終えて、彼の別な顔を知りました。
 サン=テグジュペリは空を飛びながら、飛行機に乗りながら、深く地上を見ていたのです。そんなことは知らずに、空にいる彼ばかりを想像していました。


 『人間の土地』の八編の文章は、どれも土地に根ざしています。特に、この作品の白眉ともいうべき「人間」を読むと、土地が人間の本然を見分けるのだというサン=テグジュペリの哲学が語られています。


 サン=テグジュペリは職人的哲学者とでも言うべき存在かもしれません。生業の中から、人間の普遍的な性質を導き出す人がいます。その性質とは言い換えれば、宮崎駿のいう「世界の秘密」です。サン=テグジュペリは、飛行士という職業を通じてそれを発見し、哲人となったのです。
 彼の思想の純粋な結晶が「人間」には記されています。


 「精神の風が、粘土の上を吹いてこそ、はじめて人間は創られる」(新潮文庫版『人間の土地』p205)


 『人間の土地』は、この一文で結ばれています。タイトルだけを見れば、人間が主体となり土地を捉えているように思えますが、違います。目を覚まし、立ち向かう者だけが「人間」となりうるのです。
 しかしそれでも尚、「創られる」という受け身の存在が、我々人間です。

追伸

 『人間の土地』に「同一目的に向ってする肩競合いの情熱を見いだすに、ぼくらは戦争を必要としなかった。戦争はぼくらを欺く。憎悪は、競争の昂揚に、何ものを加えはしない。」(p196)という文章があります。


 ここを読み、すぐに宮崎駿の映画『風立ちぬ』を思い出しました。この書物と、その映画には響き合うものがあります。宮崎駿の、サン=テグジュペリに対する眼差しの暖かさは、いまさら否定できるものではありません。
 宮崎駿が『風立ちぬ』を作るに至った、秘密の一片はこの作家が握っています。真似るとか、盗むとかいうことではなく「精神上の世襲財産」(p200)が、両者の間で確かに交わされたのです。
 この作品を読み、そのことに気が付き、とても嬉しくなりました。

人間の土地 (新潮文庫)

人間の土地 (新潮文庫)