ナイフとフォークで作るブログ

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西村賢太『けがれなき酒のへど』を読んだ感想。

処女作

 『けがれなき酒のへど』は、西村賢太のデビュー作だ。そして、私が初めて読んだ西村作品だ。
 ある作家を知る時には、処女作から読むのが好もしいと思う。その作家の、書きたいことが書き込まれている(可能性が高い)からだ。次作の確信のある作家など、そうそう居ない。


 『けがれなき酒のへど』は、デビュー作らしいデビュー作だ。


 西村は、自分を書いている。自分以外に書けるものが無いようにも見える。書けるものが自分だけなら、それを書くしかない。きっと、小説を書くことが命題だった。


 西村は、藤澤清造を書いている。彼以外に書ける者が居ないように見える。書ける者が自分だけなら、彼は書くしかない。きっと、藤澤を書くことが命題だった。


 言葉遊びのようだが、これはきっと真実から左程遠くない理解だろう。
 『けがれなき酒のへど』には作者と同時に、読者も登場する。読者は、作者を嘲る。それでも西村は書いた。
 二つの命題が、彼をして小説を語らしめた。『けがれなき酒のへど』はまったく処女作然とて、読者を待ち受けている。

暗渠の宿 (新潮文庫)

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