ナイフとフォークで作るブログ

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有川浩『図書館戦争』を読んだ感想。  〜 それは自然に、荒唐無稽な物語 〜

突っ込まないが吉

 『図書館戦争』を読んでいて、(恐らく)法治国家である作品舞台の日本で、同一の法体系下にありながら、武力行使が為されているのは可笑しいだろ、と突っ込みを入れたら負けだなと思った。
 これは『ハリーポッター』と同じで、学校行事でどうしてそんなシリアスな展開になるの?生徒のハリーに任せないで、教師が何とかしろよと突っ込みを入れてはイケないのと同じ論理だ。


 しかも、その武力行使の舞台が一般市民も利用する図書館なのだから、ますます冷静な考察はしないが吉なのである。
 有川浩も、その点には当然に自覚的であるはずなので、作品内でこの「図書館戦争」という事態に疑義を挟み込まない。潔い態度だ。いやむしろ、有川にとってはそれは当然の振る舞いであり、そこに有川の作家としての力量が垣間見られる。


有川浩の性(さが)

 ただ面白いのは、そういった荒唐無稽な戦争状態には黙する有川浩が、図書館を守る側である防衛員の非軍隊性には一言注釈を入れているところだ。
 「ここが規律の厳しい軍隊じゃなくてよかったな」(角川文庫版 p12)
 これは堂上二等図書正の台詞だ。有川浩は軍隊に造詣が深い作家であるが、それ故にか、ここに「正論」を挿し挟んだのは、当人の軍隊好きという性の顕れだろう。


有川浩の作品構成力

 ともあれ、図書館で戦争という突拍子もない設定を成立させている、有川浩の作品構成力は素晴らしい。
 『阪急電車』を読んだ時にも感じたが、有川の、些か無理の有りそうな物語展開を、スムースに、有り得るかもしれない物語世界として組み上げている腕前は確かだ。


 冒頭にも書いたが『図書館戦争』には、間違いなく突っ込みどころがある。けれど、突っ込みどころが有ることと、作品が破綻していることは重ならない。
 突っ込みどころと作品設定は、一枚のコインの表裏で、それを引き受けた上で小説を書き上げられるか否かが、作家(特にSF作家やファンタジー作家)の力量の見せ所だ。
 そしてその点に関して、有川浩はとても信頼できる作家なのである。