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マイナス状況の日常漫画③:吉田覚『働かないふたり』

 悲惨だったり、不幸だったり、とても平穏で平和だとは言えない状況を舞台にした日常漫画を、勝手に「マイナス状況日常漫画」と名付けて、幾つかの作品を紹介しています。今回はその3作品目で、吉田覚『働かないふたり』です。


 『働かないふたり』は、ニートの兄妹石井守と石井春子の日常を描いた漫画です。ニートという今日的社会問題を扱った点などが話題となり、いまでは相当に有名な漫画となっています。「今日的社会問題」などと大仰な言葉を使いましたが、内容はシリアスではありません。むしろ、とてもほのぼのとしています。
 ニートの兄妹がいる家という冷静に考えるとまったく穏やかではない状況は、いわばマイナス状況です。そこでの日常生活を描いている『働かないふたり』は、まさにマイナス状況日常漫画なのです。
 この『働かないふたり』は「くらげバンチ」という新潮社が運営するweb漫画サイトで連載されています。毎週金曜日に最新話が公開されています。

働かないふたり | くらげバンチ
http://www.kurage-bunch.com/manga/hatarakanai_futari/


 『働かないふたり』の面白いところを二点上げると、一つ目は、仕事や勉強などに追い立てられている読者の、自分もダラダラしたいなあというちょっと後ろめたい憧れと、実際にダラダラするときには兄妹と同じようなことをするなあという共感が、バランスよく盛り込まれている点です。憧れという遠さと、共感という近さが適度に共存しているのです。
 また二つ目は、妹の春子が人付き合いは苦手で外にも出たくないニートらしいニートであるのに対して、兄の守はニートニートでも友達が居て、免許も持っていて、近所のおばさんと談笑できるしっかりものだという、二人の個性の違いです。その違いが物語に幅と面白みを与えています。
 もし、兄妹ともにニートらしいニートで引き篭っているばかりなら、ちょっと救いのない漫画になったかもしれません。けれど、守はしっかりものであるという安心感があり、そのことが作品のほのぼのした雰囲気を支えています。実際兄妹の父親は、守がしっかりしているから問題ないだろうと考えているふうで、むしろほのぼのした家庭に幸せを感じているようです。そして春子は春子で、何とも覚束ないところがあり内気で人付き合いは苦手ながら、いかにも人のよい愛嬌があるので見ていて暗くなることがありません。


 この二点の他にも『働かないふたり』には魅力的な部分が多くあると思います。話数が進むにつれ、二人の世界が外に広がり出しています。それにつれて新たな面白さを加えていくのかもしれません。毎週の更新がとても楽しみな作品です。
 今回は、ニートというマイナス状況にありながら、愉快な日常を描いた漫画である『働かないふたり』をオススメしました。


【オススメのマイナス状況日常漫画、過去エントリー】
マイナス状況の日常漫画①:つくみず『少女終末旅行』 - ナイフとフォークで作るブログ
マイナス状況の日常漫画②:安田剛助『KILLER☆KILLER GIRLS』 - ナイフとフォークで作るブログ

働かないふたり 3 (BUNCH COMICS)

働かないふたり 3 (BUNCH COMICS)