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青木俊直短篇集『レイルオブライフ』の感想

 青木俊直さんを初めて知ったのは、ちょっとはっきりしませんが2011年頃だったと思います。Twitterで偶然に青木さんのツイートを目にし、そのアイコンに一目惚れしました。個人的な好み、ど真ん中の絵柄だったからです。
 NHKの人気朝ドラ『あまちゃん』が放送されていた頃に、プロからアマチュアまで様々な方が『あまちゃん』をモチーフにしたイラスト、いわゆる「あま絵」をネットで公開していましたが、なかでも青木さんの「あま絵」は特に人気があり、それを目にした方も多いのではないでしょうか。


 さて、今回取り上げる『レイルオブライフ』は『あまちゃん』でもたびたび登場した電車を軸に据えた物語です。『あまちゃん』では電車(北三陸鉄道)は重要な舞台であり、道具立てであり、またメタファーでもありました。それはこの『レイルオブライフ』にも通じます。青木さんは『あまちゃん』の熱心な視聴者でしたから、そこから何らかの刺激を受けて、電車を中心に置いた物語を作り出したのではないかと想像します。
 ただ、よく比べてみると両者の間には電車の捉え方に、ある明確な違いがあります。それはメタファーとしての電車に顕れています。


 『あまちゃん』での電車、それは線です。地方(北三陸)と都会(東京)を結ぶ線でした。足立ユイが「アイドルになりたい!」と叫んだトンネルの先には東京がありました。線路は点と点を結び、そこを通過せずには他方に到達できない線のメタファーとして在ったのです。
 一方『レイルオブライフ』での電車は、円として描かれています。その円は、縁にも通底します。お互いが反対方向に進んでいっても再び交わる円は、人々の様々な出会いと別れに結びつき、縁として昇華します。『レイルオブライフ』の電車は、そういった円、そして縁のメタファーとして物語を支えています。


 人間は色々な関係性を抱えて暮らしています。世の中には人間の数の何倍、何十倍の数の関係性が存在しているでしょう。そして、そのなかには恋人であれ、友人であれ、お互いの結びつきのとても美しい瞬間が存在しているはずです。もちろん瞬間と言わず、それは永く持続することもあります。
 青木さんは、そういった人と人の関係性が美しく輝いている光景を、この漫画で表現しています。別れ交わる電車のように、人間は出会い、すれ違い、再会しながら実に多くの関係性を積み重ねていきます。そのうちの、とっておきの宝石のような美しい交流を掬いあげた作品が『レイルオブライフ』なのです。
 人の優しさや温かさ、あるいは誰かの誰かに対する好意(恋愛感情だけじゃありません)についての物語が好きな方には『レイルオブライフ』はうってつけの作品だと断言いたします。