映画『アメリカン・スナイパー』感想
アメリカという国は、マッチョなヒーローが本当に好きな国なのだなあと、改めて思った。主人公クリス・カイルはその典型だったのだろう。彼はもともとカウボーイをしていて、そこからSEALsに志願したという物語になっていたが、カウボーイはやはりアメリカの象徴的存在だ。
イラクでの戦争に関わる場面は娯楽的要素が強く、例えば第二次大戦を舞台とした『Fury』ほどには戦争と正義についての葛藤は描かれていない。しかしそういった描き方は、クリス・カイルのように戦争は正しいと信じる(あるいは信じる努力をする)ことでかろうじて正気を保ち得る、戦場の狂気を逆説的に炙りだしているとも解釈できる。(もちろんマッチョなアメリカ男は戦争に疑義を差し挟むことなど無い)。
クリス・カイルは戦場での戦功の大きさに加えて、退役後に行った帰還兵への精神的ケアの活動でも知られている。『アメリカン・スナイパー』で描かれているクリス・カイルは八割方は戦場での姿だ。個人的な希望を言うと、退役後の彼の活動をもう少し詳しく見せて欲しかった。映画の尺をあと十五分くらい伸ばしても構わないので、そうして欲しかった。
帰還兵の話題はアメリカの暗部に関わる。それを直視すれば、見えてくるのはマッチョなアメリカ合衆国とは随分と離れた景色なのだろう。クリント・イーストウッドは敢えてそこを深くは描かなかったのだと思う。その点が残念だった。むしろより重苦しい戦争映画、その分マッチョさとは距離のある戦争映画として作られた『アメリカン・スナイパー』を見てみたかったと感じている。
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