伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』から、気に入った文章を幾つか
「この名探偵というのは何のためにいるか、知ってる? 私たちのためよ。物語の外にいる私たちを救うためにいるのよ。馬鹿らしい」
興味深い意見だ、と僕も思った。名探偵は、物語の一つ上のレベルに立っている。そうだとすると、優午も同じ立場に違いなかった。僕たちの物語を救うのではなく、さらに上の次元いる誰かのための存在なのかもしれない。
(伊坂幸太郎『オーデュボンの祈り』新潮文庫版p133。以下の引用も同書より)
実際は優午ではなく、僕こと伊藤自身が名探偵役な訳だけれど、そんなことも優午は承知のうえだったのでしょう。
泣きながら、徳之助は空を見上げる。いっそ、空が落ちてこい、と思った。
(同書p159)
一文だけ抜き出すと、やはり迫力が欠けてしまいます。この文の出てくる禄二郎と徳之助のくだりは切々とした情緒があり、とても好きです。
この島は大丈夫だ。ここにいるべきです。よそにはろくなことがありません。両手を一直線に伸ばしたカカシは、そういうメッセージを発していた
(同書p225)
「両手を一直線に伸ばしたカカシ」の発する大らかな安心感が、それこそ一直線に伝わってきます。
- 作者: 伊坂幸太郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2000/12
- メディア: 単行本
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