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武田綾乃『今日、きみと息をする。』感想  〜荒削りだけれど、面白い小説〜

 武田綾乃『響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ』を購入しようとしたところ品切れだったので、同じ武田綾乃による『今日、きみと息をする。』を選びました。

荒削りな原石

 『今日、きみと息をする。』という作品、率直な感想を言うと面白く、同時に荒削りな原石のような小説でした。


 面白いと感じた点が大きく二つあります。
 一つは、三人の主人公の人間関係というか、気持ちの絡み合い方です。単純に言うと三角関係ですが、一筋縄ではいかない絡まり方をしていて、そこに作者独特のアイデアと主張を感じました。


 二つ目は、同じ出来事を視点をずらして多面的に描く手法です。手法自体は割りと有り、いまさら感心することもないのですが、そこにフレーズのループについての作者の工夫が織り込まれていて面白かったです。


 ただ上に書いたように荒削りな部分もありました。
 一つには三角関係のアイデアを支えている、動機付け(なぜその気持が生まれたのか?)や因果関係(そう思い至った根拠は?)の部分で些か甘さがあること。またエピソード毎の時系列が曖昧なことや、三人が小説上の現在の状況に陥るまでの期間が短すぎることも気になりました。

高まる期待

 しかし、小説はやはりアイデアなしでは生まれません。『今日、きみと息をする。』に込めれたアイデアは興味深いものでした。ですので武田綾乃には、荒削りな部分を洗練し『今日、きみと息をする。』以上の作品を書いて欲しいと感じました。
 いや既に『響け! ユーフォニアム』シリーズが三冊刊行されているので、そちらに対する期待が一層高まったというのが本当のところです。


 『響け! ユーフォニアム』以前に『今日、きみと息をする。』を読めたことは、とても良いことだったように思います。