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『響け!ユーフォニアム』第11話「おかえりオーディション」感想 〜なぜ、田中あすかは拍手をしなかったのか〜

※以下、ネタバレあります。


 トランペットのソロパートを決める再オーディション。高坂麗奈と中世古香織のどちらが選ばれるか、動悸を高めつつ見ていました。


 オーディションは、部員それぞれがいいと思う方の演奏に拍手することで、ソロにふさわしい側を選ぶということでした。
 結果として拍手をした人もいれば、どちらにも拍手しなかった人もいました。そして田中あすかは、どちらにも拍手しなかったうちの一人でした。彼女はなぜ拍手しなかったのか、ふと、そのことが気にかかりました。


 まず思い浮かぶのは、どちらが選ばれても、田中あすかにとってはどうでもいいことだからという理由です。彼女は自分の演奏以外に関心がないらしいことは、これまでの物語から知られます。ただ、今回も同じ理由から選択を放棄したとは思えませんでした。


 田中あすかがそこまで他人に無頓着だとは思えないからです。当の中世古香織自身が小笠原晴香に対し「(田中あすかに)見透かされているような気がするんだよね、私が思っていることなんでも」と語っていることからも、そのことは想像できます。


 そこで拍手しなかったというよりは、拍手できなかったのではないかという考えが浮かび上がってきます。それは単に田中あすかが、中世古香織と仲の良い友達だからでしょうか。いや、それだけでは足りないと感じます。


 トランペットの技術で高坂麗奈が中世古香織を上回っていることはすでに暗黙の了解と言ってもいいでしょう。ですので、田中あすかが芯から自分の演奏にしか興味がないなら、高坂麗奈の側に拍手をしたはずです。しかしそうはしませんでした。もちろん中世古香織に拍手することの軽薄さも彼女は分かっていたでしょう。


 中世古香織は、彼女の個人練習を聞いていた田中あすかに「言って欲しくない、冗談でも高坂さんがいいとか」という言葉を投げかけています。田中あすかはその言葉を受け流したように見え、しかしその真情を理解していたのです。つまり彼女自身が、中世古香織にとり大きな存在であることを知っていたのです。
 それはすなわち、どちらに対してだろうと田中あすかが拍手をすることが、中世古香織を決定的に傷つけてしまうということでした。
 そこまで深く理解していたからこそ、彼女は拍手できなかったのです。


 以上のような理由で、田中あすかは拍手をしなかったのだと考えています。冗談でも、そして真剣でも、彼女が、中世古香織より高坂麗奈の方がいいと言うことは、まずもってなかったことでしょう。