『響け!ユーフォニアム』第13話感想 〜げんこつを合わせる。あるいは味のよい演出の話〜
第13話「さよならコンクール」、最終回。
コンクール会場の学校ごとの集合場所、黄前久美子が高坂麗奈の髪を結いている。そこに中川夏紀が「黄前ちゃん」と声をかけてきて、彼女と黄前久美子がげんこつを合わせる。
この場面のこの演出はとても「味がよい」と感じられました。
「味がよい」とは、将棋好きの人間には馴染みある言葉ですが、そうではない方には分かりづらいはずなので、まず説明します。端的な意味は「一石二鳥」「一挙両得」です。一手指すことで、複数の効果が上げられるようなときに使われます。
たとえば「飛車を成りながら、角道を通す味のよい手」だとか「桂を取りながら、歩を成って味がよい」といった具合です。
一つの指し手で二つの効果があれば味のよい手。そして一つの場面に二つの意味があるならば、それは味のよい演出です。
では、黄前久美子と中川夏紀がげんこつを合わせた場面にはどういった意味があったのでしょうか。どのように味がよかったのでしょうか。
一つ目は、レギュラーメンバーを外れた中川夏紀と、後輩でありながらレギュラーメンバーに選ばれた黄前久美子との信頼関係が率直に表現されたことです。
げんこつを合わせた瞬間に二人の間に伝わったのは、労り、励まし、感謝だったはずです。まだ他にもあるかもしれません。しかしともあれ、黄前久美子と中川夏紀がお互いを理解し、信頼し合っていることは真っ直ぐに伝わってきました。
そして二つ目です。そこでの二人の「げんこつを合わせる」という動作が、後の場面の伏線になっていたのです。
後の場面とは、本番直前の黄前久美子と塚本秀一の交わりです。県祭以来どこか気まずい関係にあった二人が、少しずつ歩み寄り、そして最後に互いのげんこつをコンと合わせます。
この瞬間を見たとき、そうだったのかと思いました。
一歩引いてみると、女子高生同士がげんこつを合わせるというのは些か無骨すぎます。あるいはハイタッチくらいが、よりソフトで相応しいのかもしれません。その僅かな違和感があり、黄前久美子と中川夏紀の場面は他の場面よりも強く印象に残っていました。
そのように僅かな違和感を残すことで「げんこつを合わせる」という動作を後の伏線とする演出がなされていたのだと推量します。
黄前久美子と塚本秀一が抱える気まずさは、最終回のうちに必ず解決しなければならない課題でした。その課題をどのような形で解決するかは重要です。
その課題を現在の二人に相応しい距離感で解決するため、げんこつを合わせるというのはうってつけの表現だったと感じられます。例えば手を握りあうだと、やや生々しすぎますし、逆に言葉だけでは軽すぎます。僅かな身体の接触があり、かつあまり生々しくない表現。それこそが「げんこつを合わせる」という動作だったのです。
しかしその動作を唐突に出しても印象が弱いかもしれません。そのため伏線を用意したのではないでしょうか。それが黄前久美子と中川夏紀の場面です。先の場面があったからこそ、げんこつを合わせることに、より確かな意味を与えることが可能となりました。
黄前久美子と塚本秀一の間に伝わった感情の意義を、黄前久美子と中川夏紀の場面が補強していたのです。
以上のように、黄前久美子と中川夏紀がげんこつを合わせる場面は、彼女たちの信頼を確認するために、そしてまた、後の塚本秀一との関係性の回復の瞬間への伏線として、とても味のよい演出だったのです。
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