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塩野七生『海の都の物語 2 ヴェネツィア共和国の一千年』読書メモ

 人間の良識を信ずることを基盤としたフィレンツェの共和体制が一五三〇年に崩壊した後も、それからさらに三百年近く、人間の良識を信じないことを基盤にしていたヴェネツィアの共和体制は、存続することができたのであった。

塩野七生『海の都の物語 2 ヴェネツィア共和国の一千年』新潮文庫p167)

 『海の都の物語』シリーズの二冊目である本書は、上の引用文で終わる。歴史についての本であり、特にネタバレということもないだろう。むしろ、本書を読み進める際に「人間の良識を信じないことを基盤にしていたヴェネツィア」という認識を持っていた方が、理解が深まると感じた。

 すなわち、第四話「ヴェニスの商人」に記された海上商業の仕組や制度にしても、第五話「政治の技術」で書かれている統治体制、政治体制にしても、それぞれ現実的、合理的なものである。しかし、その底に「人間の良識を信じない」人間集団がいたことを思うと、そういった現実性や合理性が、一層の凄みを持って理解できるということだ。

海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 2 (新潮文庫)

海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 2 (新潮文庫)