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田島列島『子供はわかってあげない』下巻まで読み終えて 〜 やっぱり10代に薦めたい漫画でした 〜

※以下、ネタバレあります。


 田島列島『子供はわかってあげない』。面白い漫画でした。真っ直ぐに甘酸っぱいボーイ・ミーツ・ガールの物語。話の展開にはちょっとしたミステリーや家族をめぐる物語等々、幾つかの要素が絡み合っているのですが、その底流にあるのは、あくまで一人の少女が一人の少年と出会う物語です。


 上巻を読んだ時点での感想も書いていたのですが、それはこちらです。
田島列島『子供はわかってあげない』上巻の感想 〜これは10代に読んでもらいたい漫画です〜 - ナイフとフォークで作るブログ
 そこにも書いたのですが、『子供はわかってあげない』は10代、特に中学生くらいの人たちに読んで欲しい物語です。自意識ばかりがブクブクと膨らんでいて、けれど自分が何者か見出だせない思春期の少年少女にとって一つの道標となり得る作品だからです。
 また、そこでは「モーニング」の読者層が10代とは離れていることにも触れているのですが、田島列島自身「内容をモーニングに合わせなくても良い」というつもりで描いていたことが、下巻のあとがきに書かれていました。納得です。


 『子供はわかってあげない』というタイトルを最初に見たとき、少し攻撃的な印象を受けました。大人に対する反発のようなものを思い浮かべたからです。
 しかし、作品を読み終えてその印象を改めました。最終話のタイトルは「Children grow up by understanding」となっています。「子供はわかることによって成長する」です。
 「わかってあげない」ということはつまり、わかっているからこそ言える言葉なのです(このわかっている主体は確定できません。主人公でもあり、現実世界の子供たちかもしれません)。わかっているということはそこには何らかの共感や理解があるはずで、そのうえで尚、「わかってあげない」と言うのは照れ隠しのようでもあり、悪戯っぽさが隠れているようでもあります。下巻まで読み終えて『子供はわかってあげない』というタイトルが、最初に感じた攻撃的な印象よりはずっと、柔らかな言葉に感じられるようになりました。


 ところで『子供はわかってあげない』は、読む人によっては話ができ過ぎている、或いは葛藤が希薄だと感じられるかも知れません。確かにこの作品は一筋縄ではいかない種類の作品ではないし、そういった物語を求める人には物足りない作品かもしれません。
 しかし『子供はわかってあげない』は一人の少女と、一人の少年の想いが真っ直ぐに重なり合う物語なのです。そして、その二人を祝福するように世界がちょっと気を利かせて、二人の道行を手助けする瞬間があっても問題ないのではないでしょうか。
 これは世界が二人を手助けした瞬間の物語なのです。フィクションには様々な作品があるべきだし、世界に肯定された主人公についての物語も、やはり有って然るべきなのです。


 先ほど『子供はわかってあげない』は10代に読んで欲しいと書きましたが、彼ら彼女たちの現実がこの作品のように上手く行くとは限りません。むしろもっと惨めな場合の方が多いのではないでしょうか。
 けれど例えそうだとしても、一つの擬似体験として『子供はわかってあげない』の、真っ直ぐで祝福された青春譚に彼ら彼女達が触れることには、確かに意味があるように思われるのです。