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『響け!ユーフォニアム』第10話「まっすぐトランペット」感想 〜 中川夏紀が「いい人」だという話 〜

※以下、ネタバレあります。



中川夏紀(1)

 中川夏紀。北宇治高校吹奏楽部、ユーフォニアム担当の2年生。黄前久美子の先輩で、田中あすかの後輩です。


 物語が始まったころは、イヤホンを耳に窓辺や机に突っ伏す姿が多く描かれ、あまり吹奏楽に熱心でないように見えました。またパート内の雑談にもあまり参加せず、言葉数も少ないので覚めた性格にも思われました。
 けれど、ここ数話で受ける印象がずいぶん変わりました。


中川夏紀と吉川優子

 まず第8話「おまつりトライアングル」です。
 中川夏紀はトランペットの吉川優子と同級生もう一人、あわせて三人で「県祭」に繰り出しています。止め絵ばかりでしたが、彼女がかなりはしゃいでいる様子が見て取れました。友人と一緒にいる場面もあまり見られず、とくに吉川優子とは反りが合わないのかと思っていましたが違ったようです。


 むしろ吉川優子との間には二人だけに分かる細やかな関係があるのかもしれません。そう、最近の黄前久美子と高坂麗奈のように。もし中川夏紀と吉川優子が、二人だけにわかる言葉を共有しているなら、それについてのエピソードも見てみたいところです。


練習姿

 次に第9話「おねがいオーディション」です。
 黄前久美子は個人練習をしている最中に、中川夏紀が、田中あすかの音色かと聞き紛うほどの音を鳴らす練習姿を目撃します。それはまさに懸命を体現する練習姿でした。
 黄前久美子ばかりでなく、多くの視聴者が中川夏紀に対するに認識を改めたシーンではなかったでしょうか。


いい人(1):救い

 そして第10話「まっすぐトランペット」です。
 話題の参考として予告動画を貼っておきます。


TVアニメ『響け!ユーフォニアム』第十回 予告 - YouTube

 この予告動画の0:11、中川夏紀が「話あるからつきあってよ」と言っています。誘った相手は黄前久美子。コンクールのオーディションで明暗を分けた先輩と後輩です。あまりよい話があるとは思えません。しかしその予想は、いい意味で裏切られます。


 マックとおぼしきファーストフード店で、中川夏紀と黄前久美子が話し合う言葉を聞き、私の頭に羽海野チカの漫画『3月のライオン』(白泉社)が浮かんできました。その5巻に「不思議だ ひとは こんなにも時が 過ぎた後で 全く 違う方向から 嵐のように 救われる事がある」というモノローグがあります。
 まさにこのモノローグのように中川夏紀は知らず知らずに、黄前久美子に救いの手を差し伸べたのです。それはきっと、中川夏紀自身が本来「いい人」だったからこそありえた出来事なのだと思います。そして彼女が黄前久美子の楽譜に記したメッセージも「いい人」であることの証しであるでしょう。


いい人(2):庇い

 また第10話にはもう一つ、中川夏紀の「いい人」さが表れる場面がありました。トランペットのソロパート問題で、吉川優子が高坂麗奈に突っかかったとき、すぐに二人の間に入ったのが彼女でした。あるいは上の第8話についてのところで想像したような、吉川優子との関係性があっての行動だったかもしれません。
 けれどやはり、彼女の本来的な人柄がそう行動させたのだと解釈したくなる、作り手の意図を感じる場面でした。


中川夏紀(2)

 以上のようなことを受け最近数話で中川夏紀に対する認識が、やる気のない先輩から変化してきました。彼女はやる気が無いのではなく、むしろ根が真面目なのだと思います。それは例えば田中あすかや高坂麗奈のような、特別とも言える情熱には結びつかないかもしれません。けれど少なくとも彼女に、努力することへの抵抗はないのだと理解できました。


 そして中川夏紀は「いい人」なのです。一見覚めているような姿も、発想を逆転させると、相手や場所によって態度が変わらない芯の強さなのかもしれません。そしてその芯にあるのは優しさとか、真っ直ぐさとか「いい人」と親和性の高い性質だと想像します。第8、9、10話での彼女の姿は、そう想像することを許すものでした。


 中川夏紀は、ともすれば忘れがちですが主人公黄前久美子にとって部内で最も近しい存在です。その中川夏紀の人となりが段々と見えてきて、それがすなわち「いい人」だということは、見る側にとってとても心地よく、また嬉しいことなのではないでしょうか。